みやtoのべる
HOMENOVELS|LINK(準備中)|MAIL

  009─第二話─

後日談だが、踊る薬草─タラバ丸は、光の方へ向かう習性があり、私がいた場所へ進んだのは、その場所が日の当たるところだったから。
と、いうことらしい。
…ガトのやつ、あぶなっかしい事を。
シャルは自宅で休息をとっていた。
私が6才の時に、育て親である幻魔じいちゃんが死んでから、ずっと一人で住んでいる。
「…もう一人暮らしを始めて4年か」
自分の正体は今でもわからない。
他人と違う金髪、そして緋眼。
「俺と同じく、異世界からきたのかもしれんな」
と幻魔じいちゃんは言っていた。
…具体的には教えてくれなかったが、私が異世界からきた事に確信があるようだった。

コンコン
誰かが戸を叩いている。
…依頼から帰って来たばかりだし、依頼を頼みに来た人なら断るとしよう。
そう考えて戸を開ける。
「シャル、…急ぎの用ではないが、調査を頼みたい」
…村長が来たか。
と少し固まっていると、
「『常氷の洞窟』は知っているじゃろう。村人の報告によると、違和感を感じたらしい。そこでシャルに、常氷の洞窟を調査してもらいたい。頼んだぞ」
と村長は言いたい事を言うなり、さっさと帰ってしまった。

  010─疑惑─

…言うこと言って帰っていかれても困る。…断るに断れなかったじゃないか。しかし村長の様子が何か変だった。報酬について触れなかったのもそうだが、村人が異変を感じるはずがない。
村人は危ない場所である常氷の洞窟へ近寄る事は無いし、異変に気付く力もないはずだ。
色々引っかかるが、行かなければ解決する事は無い…か。


─時刻は昼頃。
まだ森から帰ってきて一日と経っていない。
明日出発すると決めて、その日は休む事に専念する。
寝床で横になっていると、また戸を叩く音がする。
…また村長だろうか。
そう思って戸を開けると、ガトだった。
「昨日の仕事の報酬を渡しにきたよ」
と袋を差し出してきた。
「ご苦労様」
「それと、この石剣もあげるよ」
と、石剣もくれた。
「助かるな」
「…本当は白骨死体に返した方がいいんだろうけど」
ガトがポツリと呟いた。
「この石剣の出処は白骨死体だったか」
「うん。また森へ入って行って返してくる度胸もないし、僕が持っていても意味無いしね」
とガトは微妙な顔をして言った。
「助かる事に変わりはない。ありがとう」
「そう言ってもらえるとうれしいよ。じゃあ、またね」

  011─常氷の洞窟─

そう言って、ガトは小さな背を向けて帰っていった。

正直なところ、この石剣を渡しに来てもらわなければ、武器を探しに行こうか、と考えていた所だった。
常氷の洞窟の主はムシュフシュの比ではない。
いや、そもそも戦おうと言う話が間違いか。相手は水の神龍、格が違う。
…異変の調査ということだし戦おうとは思っていないが、あの洞窟に入る以上、どうなるかわからない。
シャルは深く考えるのをやめ、眠りについた。


明朝、他の生き物もまだトロトロとまどろんでいる時間帯に、シャルは目を覚ました。
…早い方がいい。さっさと終わらせるとしよう。
身支度を整えていると、視線を窓の外から感じた。
「誰だ」
芯の通った声で窓の外に居るであろう者に言う。
…返事はない、か。
シャルは戸を開け、辺りを見回したが、何も見当たらなかった。
…別に構う事でもないが、戸締まりはしっかりしておこう。



シャルの自宅がある集落は、森にぐるりと囲まれている。何処に行くにしろ、森を歩く必要がある訳だ。
…初めて入る場所なのに、異変を調べる事ができるのか?
一人で疑問符を浮かべ、森を歩く。

  012─洞窟の中へ─

途中、美味しそうな木の実を見つけて、袋へ滑り込ませる。
そして、少し上機嫌気味に洞窟へと再び歩を進めていった。
…なんでも、幻魔じいちゃんが言うには、『こおり』が一年中とけないんだそうだ。
幻魔じいちゃんは時々意味が分からない事を言う。



…確か、この辺りだったはずだが。
と草を掻きわけ、進んで行くと、ぽっかりと穴が地面に空いていた。
…底は浅い。
そう判断したシャルは穴へ飛び降りる。
とさっ
と軽い音を残して着地した。
…寒い。
…吐く息が白い。
…何故だ?
疑問符をたくさん浮かべつつ、先へ急ぐ。
…『こおり』とは、吐く息が白くなって、寒くなる現象の事を言うに違いない。
シャルが一人合点しながら先に進んでいると、とてもひろい場所にでた。
中央に湖があり、その湖に氷塊が浮かんでいる。
…一体、何処に異変がある?
シャルが辺りを調べていると、湖にあった氷塊が音をたてて砕ける。
氷片がキラキラと湖へと吸い込まれ、水神龍が湖の上に浮かんでいた。
「水神龍、ここで何か起きたり、現れたりしなかっただろうか?」
「私が居る以上、変化など有り得えませんよ」

  013─神龍の試練─

…水神龍はおそらく真実を語っている。すると、村長が嘘をついている事になる…か。
考えをまとめていると、再び水神龍が語り掛けてきた。
「私も問いましょう。貴方は何故ここにいるのですか。」
「こちらの長がここで異変が起こっている事を知り、私が調べにきたのだ。だが、どうやら勘違いらしい。今すぐにでもひきあげるつもりだ」
「勘違いで済まされるほどここにいる罪は軽くありません」
…やはり、こうなったか。考えたくはなかったが、村長が私を消す為に仕組んだ事だったようだ。
「神龍の試練を受けてもらいます」
そういうと、上から何かが三つ地面に刺さった。
「貴方が得意とするものを選びなさい。
右から順に、
大剣の水剣 ウォレスシグルド
突剣のウルゼクサー
刀の霧刀 濡魂 (ぬれたま)
となっています」
…どれも桁違いの破壊力を秘めているのが解る。
しかし、今から試練を受ける者には上等過ぎる代物を果たして素直に貸し与えるものだろうか。
…何か、企みがあるのかも知れない。
と、吟味するフリをしながら考えをまとめた。

  014─激突─

…最初から選ぶ武器は決まっている、霧刀 濡魂だ。
ゆっくりと濡魂の柄へと手を伸ばす。
ひやりと冷たい柄を右手で握りしめ、地面から引き抜いた。
「ようやく決まりましたか。…覚悟はいいですね?」
その問いかけに、
「鞘を付けて欲しいが」
と文句をつけた。
「これは失礼」
鞘が少しシャルより高い位置に現れ、ふわりと落下してきた。
シャルは鞘を受け取り、音もなく濡魂を収める。
「では、いきますよ」
水神龍は氷塊を二つ落とした。
パキパキと音をたて、二つの氷塊は人の形へと姿を変えていく。
その二体の氷人形の手には、シャルが選ばなかった大剣と突剣がそれぞれ握られていた。
「私には実体がありませんから、その氷人形が相手を務めます」
水神龍が無表情を作って言った。
大剣人形が左、突剣人形が右に、それぞれの構えをとって待機している。
「それでは、始めます」
その台詞を合図に、大剣人形、突剣人形は一直線に突っ込んで来た。
大剣人形が振りかぶり、突剣人形がシャルの後ろめがけて跳ぶ。
シャルは振り下ろされた斬撃を少し後ろへ下がる事で回避した。
突剣人形がシャルの後ろへ着地する。

  015─氷人形─

突剣人形との距離を確認して、思いっきり鞘を後ろへ突いた。
吹き飛ばなかったが、土煙をあげて尻餅をついた。
更に後ろへ突いた反動を使い、大剣人形の顔面へ抜刀する。
ガキィッ!
振り抜いたが、大剣人形にはあまり効いていない様だった。
…魔法生物は斬撃や打撃に対して非常に高い耐性をもっている、と幻魔じいちゃんが言っていたな。
とりあえず二体を視界に入れて置くため、軽く跳んで大剣人形の頭を踏み越え、大剣人形の少し後ろへ着地した。
突剣人形が突きの動作へ移行しながら間合いをつめる。
鋭い突きがシャルの腰の辺りをかすめ、その慣性を使って突剣人形が右の膝蹴りを放つ。
「…遅い」
シャルは膝蹴りが届く前に突剣人形の内側へ潜り込み、胴を蹴り飛ばした。
突剣人形が遠くまで吹き飛び、湖に落ちる。
…大剣人形が居ない?
警戒していると、急に地面が震動し始めた。
危険を感じ、シャルは後方へ跳ぶ。

ボガガゴォッ!
シャルが居た場所から地をえぐり、大剣人形が飛び出した。
「…!」
大剣の形状が、ドリルの様に変化している。




Copyright 2008 みやtoのべる All Rights Reserved. * Template design by Nikukyu-Punch *
inserted by FC2 system