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  001─用心棒─

「っくしゅ!」
少女は顔を手で押さえ、盛大にくしゃみをした。
少女の名前はシャル。
つやつやした金色の髪を腰まで伸ばし、整った顔からはどこか憂いを感じさせる。
元は美少女である事が窺えるが、みすぼらしい格好によってそれは相殺されてしまっていた。
「…大丈夫?」
声をかけたのは少年。
少年の名前はガト。
先程から二時間位、この二人は森の中を歩いていた。
地球では見られない形や色の植物が群生する、そんな森。
「大丈夫だ。この辺りに来るといつもこうなる」
シャルはガトを守る様に、辺りを見回しながら歩く。

シャルは村の依頼をこなして生活していた。
今回の依頼はすぐ横にいる少年、ガトのもの。
内容は希少植物の採取。
なんでも、友達同士で言い争った際、後に退けなくなったんだとか。

「そう、僕は平気だけどな?」
森は広い。
村は森の中に作られているし、村民は誰も森の外に出た事がない位だ。
…もしかしたら、森しかないのかもしれないな。
シャルが淡く考えを巡らせていると、足が踏み慣れないモノを踏んだ。
ゆっくりと足をどけると、短めの草にアクセントを添えるがごとく、人の頭骨が転がっていた。

  002─森の主─

「何を見てるの?シャル」
シャルが少しの間頭骨を眺めていたら、ガトに話し掛けられた。
せっかくなので、警告も含めてガトに聞いてみた。
「これを見てまだ先に進むか?」
ガトは一瞬目を見開いたが、
「シャルがいるから大丈夫だよね?」
と言った。
その表情はすっかり強張っていた。



どうやら陽が落ちたらしい。
辺りがさぁっと暗くなり、互いの顔を確認するのも難しくなってきた。
この世界には月が存在しない。
代わる物も無い。
だから余計に暗い。

「やったぁぁ!!ついに見つけたぁ!」
静寂を破る様に、ガトはいきなり絶叫した。
怖かったのだろう、普段よりも声が高い。
…何事だ?
シャルもガトの方向を見る。
…形容し難い植物がたくさん踊って…。
「アレを取って帰ろう!」
と狂喜している。
その声に合わせるように、遠くから何かの音がする。
シャルは素早く反応し、ガトを制止した。
「…静かに。お前の絶叫がこの森の何かを刺激した…」

「っ!ごめん…!!」
慌てて声のトーンを下げたが、もう遅い。
毒々しい吐息を撒き散らしながら、橙色をした4つ足のドラゴンがその姿を木々の陰から覗かせていた。

  003─主との戦い─

ガトが震えながら言う。
「こっ、コイツ…ムシュフシュだ…!。じいちゃんの昔話によく出てきたから…覚えているんだ!」
ふぅ、と溜め息をつき、
「ガト、できるだけ硬い木の枝と、石ころを拾ってきてくれ」
と静かに言った。
ガトはびっくりした様な表情を浮かべてシャルを見たが、
「任せて…!」
と力強く言って、ムシュフシュに背をむけて森の中へ駆けていった。
「流石、男の子だ。私は…、ちょっと勇敢すぎるか」
苦笑したのと同時、ムシュフシュが毒液を撒き散らしながらとびかかってくる。
シャルは後ろに跳ぶのは危険と判断し、上に跳ぶ。
シャルの金髪が闇夜にたなびき、ムシュフシュの背に着地した。
「っ!」
全力で拳を振り下ろす。
タイヤを殴った様な感触だが、恐らくこちらの方がはるかに堅い。
故に、シャル自身も拳を痛める結果になった。
これ以上の打撃は無意味と判断し、ムシュフシュから離脱する。
「!」
シャルの着地点にムシュフシュが迫っていた。
シャルはとっさの判断で爪を通る軌道の内側に潜り込み、腹部に全力で拳を打ち込む。
ムシュフシュは少しうめき声をあげたが、やはり致命傷にはなっていないようだ。

  004─ガトの決断─

「さて…どうしよう」
と痛む右手をさすりながら、シャルは弱々しく呟いた。



夜の暗闇が辺りを包む中で、ガトは非常に焦っていた。
…硬い木の枝がみつからないよ。
そのうえ、いままで印をつけずに進んできたため、シャルがいる方向も、村へと続く道のりもわからなくなっていた。
これはまずい、と冷静になろうとするが、もし、シャルが八つ裂きにされていたら?
二頭目が襲いかかってきたらどうする?
と余計な考えがガトの思考を支配し、焦りは高まる一方だった。


少しずつ夜が明けていく中、ムシュフシュが吐く毒液や爪をかわしながら、石を拾う。
…致命傷を与えるなら、やはり目か。
随分と攻撃をかわしてきたが、相手が疲労している様子は無い。
…流石ドラゴンだな。…仕方ない、自分から相手の隙をつくるしかないか。
とムシュフシュの正面に立つ。
石をムシュフシュの顔へ投げ、全力でムシュフシュへ駆けた。
ゴッ!
石が当たった事を確認し、斜め前へ跳ぶ。
ムシュフシュがシャルを見失っていると、二つ目の石を左手に持ち、思いっきりムシュフシュの右目に叩き付けた。
ごちゅッ!
と左手まで右目の奥深くまでえぐり込む。

  005─窮地─

右目から左手が抜けず、暴れるムシュフシュに殴り飛ばされる。
「ぐぅっ!」
受け身を取ったが、腹部に激痛がはしる。
これ以上のダメージは致命傷。
大人なら耐えられる痛みも、少女の華奢な身体では無理な話だ。
…次はない。
シャルはそう自覚し、ゆっくりと立ち上がった。



ガトは、ひとつの目印を見つけていた。
…踊る薬草だ!
それを腰に巻いていた袋へ詰める。
そして、ガトはあたりを見回した。
ふと、見慣れぬ色彩が目にはいったので、そちらの方へ歩いていく。
すると、首のない白骨死体が石剣を握り、静かに横たわっていた。
「これは…、シャルが見ていた白骨死体の胴体?」
と白骨死体を見つめていたが、持っていた石剣を拝借することにした。
「これで、石ころを5つと石剣を一本。今戻るからね、シャル」
と白骨死体に手を合わせ、少しひらけた場所に、踊る薬草を置く。
「頼むよ、タラバ丸…!」
と踊る薬草に呼びかける。
呼びかけに答えるように、タラバ丸こと踊る薬草は、朝日に照らされ、ゆっくりと歩み始めた。



「…まだか」
とシャルは洩らす。
あれから更に攻撃を回避し続けているが、確実に疲労が溜まっていく。

  006─合流─

「急いで!タラバ丸!」
と声を掛けるが、タラバ丸はふりむきもせず、ただ優雅に踊り歩いている。
「急いでってばぁぁ!」
叫びが明朝の森に響き渡っていった。



「?」
シャルが反応した。
「ガト!?」
辺りを見渡すが、姿はない。
右目を失っているムシュフシュは、毒々しい吐息の色がますます濃くなり、猛りくるった攻撃は激しさを増していた。
紙一重で避ける事が多くなり、服がボロボロになっていた。



「今、シャルの声が聞こえた!」
とタラバ丸を腰の袋へ無理矢理ねじこみ、声のする方へ走り出した。
「そこなの?」
茂みをかきわけて進んだ先に、右目の潰れたムシュフシュと、ボロボロのシャルが対峙していた。
「お待たせっ!シャル!」
ガトが石剣と石ころの入った袋を投げる。
シャルは石剣と袋を受け取り、
「…任せろ」
とガトが探しにいった時と同じ言葉を返した。
シャルは石剣を腰に収めると、抜刀の構えをとる。
「悪いが、時間切れだ」
ヒュカッ
そう言った時には、ムシュフシュの左前足は地面に転がっていた。
「ぐぅぅぅォオォォ!!!」
ドパッ
と雄叫びと共に血が噴出し、攻撃が止まる。

  007─帰村─

ムシュフシュは左前足を失い、バランスが崩れて傾いた。
続けざまに石剣を振るう。
「幻魔流、斬空…!」
真空の刃が石剣から発生し、ムシュフシュを真っ二つに裂いた。
「す、すごい…、あんなでかい化け物を真っ二つにするなんて!」
「あの技は武器を選ばない。木の枝でも同じ結果になる」
とシャルは石剣をぼんやりと眺めながら呟く。
「さっきの幻魔流ナントカってなに?必殺技?」
「幻魔じいちゃんが教えてくれた剣技のひとつだ。必殺技とは…少し違う気がする。幻魔じいちゃんはもう死んでしまったし、使えるのは私だけなんだろうか…」
「幻魔じいちゃんって、あの幻魔のじいさん?…凄い人には見えなかったんだけどなぁ」
う〜ん、とガトが頭を抱えて唸る。
「ふぅ…。早く村へもどろう。私は疲れた。汗もかいたし、ヘトヘトのベトベトだ」
とムシュフシュの爪や牙を腰の袋へ詰めながら言った。
「目的も果たしたし構わないんだけど、帰りの道わかる?」
とシャルへ聞く。
「………あ」
とシャルが手を打つ。
「引き返せば帰れるんじゃないか?」
と、続けて言う。
「シャルもわかんないんだ…。こうなったら、コレに頼るしかないね!」

  008─1話完結─

と袋から踊る薬草を取り出した。
「待て、なんでソレがある?そんな怪しい薬草が役に立つわけないだろう」
「任せて!タラバ丸は僕をシャルのところまで連れてってくれたんだよ?役に立つって」
自信たっぷりに言いはなったので、
「そこまで言うなら、その『たらばまる』とやらに任せてもいいがな」
と信用なさそうな視線をタラバ丸へ向けながら言った。
そうして、タラバ丸に道案内を任せ、帰路についた。



…結局、タラバ丸はその場で踊るだけで、一歩も進まなかった。
「…道案内どころか、動きもしないな」
とジト目でガトを見る。
「アハハ…。し、しょうがないね!自力で帰ろうか!……ぅ、シャル?」
誤魔化す様に笑ってみたが、
「…ソレ、斬ってもいいか?」
妙に無表情な声が返ってきた。
「駄目だってば!唯一の収穫なんだから!」
シャルをなだめ、二人は結局、苦労して村へたどり着く羽目になった。




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